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2015.07.28

ケルン、TASCHEN社訪問記・その2

  ケルンのヴァルター・ケーニッヒ書店
世界最高のアートブックストアです
 
 
 
 

打ち合わせの合間にシモーネ女史に社内を案内してもらいました。

 

ケルン本社で働いているのはおよそ25人、編集、デザイン、制作、翻訳、契約……と各部署の部屋があり、たいてい1部屋で2?3人が仕事をしています(シモーネさんは個室でした)。

どこもゆったりとレイアウトされ、壁一面の造り付け本棚に本がきちんと整理されています。積み重なった書類、こまごまとした私物、ナシ。あるのは、美術作品でした。どの部屋にも廊下にも。

 

ヘルムート・ニュートンが撮影したセレブリティのポートレート、しかもモデルのサイン入りのシリーズが翻訳チーム室の壁一面に。会議室の壁はウォルフガング・ティルマンスのコンコルド・シリーズ……どれも有名作品なのがちょっとばかり成金っぽいかな?と、ひがんでみたってどうしようもない量と質。

 

一番見事だったのは、優美なメイン階段を上りきった踊り場に吊られて展示されていたマーティン・キッペンバーガーのゴンドラの立体作品。クラシックな空間と素晴らしく響きあっていました。

 

そうこうしているうちにランチタイムになり、「予約してあるのよ」とシモーネさんが連れて行ってくれたのは、バックヤードに面した広い社員食堂でした。

 

半地下にある厨房で老齢の男性シェフが料理しています。社員食堂とはいえ、中央に革張りのソファセットがあり、10人は座れるダイニング・テーブルが3台がゆったりと置かれている、リラックスした感じのいい空間です。 

 

私が座った場所から見える、部屋で最も良い場所にマーティン・キッペンバーガーの絵画作品が掛けられています。向こう側の壁に掛かっているのは巨大な赤い絵画に見えるけど、おそらくアダム・フュスのフォトグラム作品でしょう。

 

ライ・ブレッドの上にシェーブル・チーズのスライスをのせ、軽くトーストして蜂蜜をかけた一皿(ローストしたオニオンとトマト添え)、サフランリゾットを添えた豚フィレ肉のトマト煮が出て、デザートのブルーベリーケーキはシェフ自ら運んできて「ちょっと座ってもいいかな?」とお喋りを楽しんでいきます。

 

TASCHEN社を訪問して、印象に残ったのは彼らの「空間と時間」の豊かさでした。

というか、私自身を含めた日本の出版・編集人が働く環境を思い出すにつけ、あまりの違いに唖然とするしかなかった。話には聞いていましたが、実際に体験してみると強烈です。

 

「時間」というのは労働時間のことです。18時を過ぎるとほとんどの人は帰宅するし、それどころか、その日の仕事が早く終われば、切り上げて帰宅している様子です。残業という概念が存在していない感じ。

 

それに皆が順番に2週間の夏休みをとります。シモーネさんは先週家族でヴェネツィア・ビエンナーレへ行ってきたそうだし、デザイナーのアンディさんは2日後からババリア地方へ、シェフは明日からラトビアへ。ただし毎年、フランクフルト・ブックフェアの前には全員残業しててんやわんやで仕事をするそうですが。

 

それにしても私たちの労働は、効率が悪すぎるのではなかろうか。

そんな思いが頭から去りません。うらやましいと言ってもどうにもならない。彼らにとってはこれが当たり前のことなんですから。

 

空間と時間という人間にとって基本的・重要な環境の初期設定が違いすぎる。

 

それでも私は、美術、写真、デザインについての本を、それも良い本をつくりたいと望んでいるわけです。この埋められない差の存在を自覚しつつ、質としては彼らと同等もしくは凌駕する書物をつくるには、相当、脳味噌を活用しなければ――と考えこんでしまった出張でした。