cawaii ジャーナル/展覧会

2015.07.01

編集力の妙「ドラッカーコレクション 珠玉の水墨画 マネジメントの父が愛した日本の美」

 
 

正気を取り戻し、世界への視野を正すために、私は日本画を見る Peter F. Drucker(1909-2005)

 

久々に、展示室を去りがたい気持ちになる展覧会でした。

経営学者、ピーター・F・ドラッカーの日本美術コレクションは、それほど素晴らしいものでした。

 

彼は20代を過ごしたロンドンで偶然に日本美術と出会い、28歳でアメリカに移住した後は、ワシントンD.C.で暮らしながらお昼休みにフリア・ギャラリーに通って日本の絵を見ていたそうです。

日本美術との出会いからおよそ25年後、1959年に初めて日本を訪れ、京都で2点の作品を購入。

それは室町時代の画家・式部の扇面画と、江戸時代の女性画家・清原雪信の芙蓉図でした。

 

ドラッカー・コレクションには絵巻、屏風、工芸、浮世絵などはありません。

掛け軸のみというのが潔い。実際にリビングルームや書斎にかけて“一緒に暮らす”ために購入していたからです。

 

コレクションの核は室町時代はもとより桃山時代の水墨画、江戸時代の池大雅や浦上玉堂などの文人画(この分野のボリュームは意外なほど大きい)、白隠などの禅画、尾形光琳や伊藤若冲の作品も。

 

特に室町水墨画のコレクションには遺品のきわめて少ない画家、伝記がつまびらかではない画家たちの作品が多く含まれていて、しかも驚くほど保存状態が良いものが多く、感心して見ているうちにあっというまに時間がたってしまいました。

 

「コレクションを作るために最も大切なことは何か」と訪ねられると「良い先生を見つけること」と答えたというドラッカーは、日本の古美術商たち、美術史家たちと親しくつきあい、教えを請うていました。

 

ある絵に出会う。その作品が何かを語りかけてきたと感じたら、状態や出所や技術的な質を確かめる。そして購入した後にしばらく一緒に暮らしてから、最後の決断をしたとドラッカーは書いています。もしそれが「高価な壁紙」になってしまったと感じたら、コレクションから外していくと。

 

選んだり削除したりというその慎重なプロセスは、まさに編集という仕事です。

その質の高さと持続力に瞠目しました。

 

展覧会ではすべての作品に明解なキャプションが展示され、ストレスを感じることなく鑑賞することができました。

コレクションの世界を伝えるとともに、ドラッカーという人間への関心と、彼が日本美術をどのように見ていたのか? という視点が展示構成にうまく組み込まれていました。

展覧会そのものも巧みに編集されていました。

立ち去りがたい充足感は、二重の編集力がもたらしたものだったと思います。

 

千葉市美術館での会期は終了しましたが、

長野県信濃美術館(7月11日?8月23日)

山口県立美術館(10月30日?12月6日)に巡回します。